シーズンインして何かと納期が短い仕事が増えて、すっかりご無沙汰になってしまいました。
今回はブレーキ編です。
ブレーキと言っても、モトクロッサーなどの車両をモタード仕様に変更する際は、フロントのブレーキの変更がメインになります(リアの大幅な変更はあまりありません)。
モトクロッサーのノーマルフロントブレーキは、年々ブレーキローターは大径化していますが、いかんせん厚みが3mm程度なので、カートコースなどを走るとすぐにフェードしますし、ローター自身が薄く熱容量が足りないために皿状に変形します。

ストレートエッジとブレーキローターの間に隙間があります。
これは減った物ではなく、反っています。
そして熱が入ると(ブレーキを掛け続けると)さらに反り、冷えると少し戻ります。
こうなると2度と元には戻りませんし、ブレーキを掛け始めローターが反っているのを平らにするためにストロークを使い切ってしまい、ブレーキレバーはグリップまでくっついて、全く止まらなくなってしまうでしょう。
そんなわけで、効きとコントロール性、安定したブレーキングの為にブレーキシステムの変更を行います。
・ブレーキローター 厚みが厚い物(5mm~5.5mm)そして外径が大きい物へ変更します(Φ320が主流です。これはキャリパーとスポークとの干渉を避けるためという意味もあります)。
・ブレーキキャリパー CRF150Rや市販車を除くと対抗4ポットキャリパーが多く使われます(ピストン径はまた後で)
・ブレーキマスター これも今はラジアルマスターが安く手に入るようになったので、ラジアルマスターが主流ですね。
当店ではブレーキ回りはbremboを使う事が多いです。

信頼性と部品の入手のし易さ、ブレーキパッドも種類が豊富でスペアパーツも入手がしやすく、対応する社外品も多いのでレース会場などでは安心感があります。
ちなみにブレーキローター、キャリパー、マスターとブレーキシステムの中で一番大事(本当はどれも大事!)なのはブレーキローターだと思ってます。
ダメなローターは熱に負けてすぐ反る、チャタの原因になる、変形してしまうと常にブレーキパッドと接しているのでホイールの回りが悪いうえに、熱が入ると軽くブレーキが効いた状態になって突然切れ込んで転んだりします。
そんなブレーキローターも消耗品です。
使っていればダメになります。
新品だとガタはこのくらいです。
消耗しているのはフローティングピンだけでなく、インナーも減っていますのでこうなったら新品交換ですね。
なお外周が軽くなっているペータルローター(ウェーブディスク)は、まあ250ccくらいまででそれ以上の排気量では私はお勧めいたしません。
軽いのは魅力ですがその分熱容量が足りないので、変形しやすい傾向にあります。
この辺は製作者の意図で変わるので、「ワタシ」は使わないという意見です。
純正部品ではない物を取り付けたら、必ず寸法のチェック(部品間の干渉)を見ないといけません。
ブレーキローターもノーマルよりも厚いものは、フローティングピンがサスペンションが沈むとアウターチューブと接触するものがあります。
モタードマシンでは、大抵オフセットが無い物を使う場合がほとんどです(ノーマルハブと同じ寸法の場合)。
ちなみにRM-Zはbremboの5.5mm厚みのローターを使うと、フローティングピンとアウターチューブがこすれますので対処が必要です。
また厚みが増えるので、ブレーキローターの取付ボルトの頭がアウターチューブと干渉する場合もあります。
一回サスをフルストロークさせるなりして干渉を確認してください(バネの無い状態でアウターチューブをフルストロークさせる)。
ノーマルよりも厚みがあるブレーキローターを使うと言う事は、ブレーキキャリパーのオフセット量もノーマルとは変わることになります。

これはYZ用で市販されているキャリパーサポートです。
オフセットが合っていないために切削してオフセット量を合わせます。
専用品と銘打っていても、必ず寸法の確認は必要です。
もう一つΦ320のブレーキローターを使うのは、キャリパーとホイールの干渉(スポークホイールの場合)を避けるためでもある場合が多いです。

これはYZ450Fにbremboの100mmピッチのP30/34レーシングキャリパー(Φ30ピストン×2、Φ34ピストン×2)を使用した場合のスポークホイール(ノーマルハブ17インチ)とのクリアランスです。
17インチよりは16.5インチの方がスポークとキャリパー間のクリアランスは大きくなりますが、レインで17インチを履く場合など干渉具合を確認することは重要です。

これはCRFに40mmピッチP30/34キャリパーを装着する場合、17インチのスポークホイールだと干渉するのでキャリパーを切削しているところです。
こういう事もあるので、キャストのキャリパー(安いんですけどダストシール付きで幅が広い)は使わずレーシングキャリパーを使用します。

キャリパーサポートを介しての取り付けの際には、パッドのアタリも確認します。
ブレーキローターの内側、外側両側ちゃんと確認しましょう。

ラジアルキャリパーの場合、キャリパーサポートにカラーを追加してパッドとローターのアタリを調整します。

キャリパーサポートの設計が悪いと、ブレーキローターに対してキャリパーが傾いていたり、パッドがちゃんと当たっていない物も市販されています。

これはパッド外周があたっていませんね。
気が付かずある日パッド同士がくっついてブレーキが効かなくなります。
それと16.5インチを使う場合、キャリパーの脱着がかなり大変になりますが、と言うよりかキャリパーを少し削らないと取り外しができなくなります。

内側を少し斜めに削りこまないと脱着できません。
次はマスターですが、キャリパーのピストン径に合わせて選択することになります。
先ほどのP30/34キャリパーですと、多い組み合わせはΦ16×18のラジアルマスターでしょうか。
もっと柔らかいタッチが良い方はRCS15を使います。
予算がある方はΦ16×16というのもあります。
この辺は効きとタッチ、ストローク感との兼ね合いで決めることになります。
レバーも好みです。
bremboですとロングとショートのレバーがありますが、これはレバーの長さだけでなく曲がりも違います。

上の2本はロングで、下はショートレバーになります。
ショートの方がロングに比べて抉りが大きく(ドッグレッグなんて言われます)、ロングよりもグリップに近くなります。
ショートの方が握った感じタッチが固く感じるので、私はロングレバーの先端をカットして使う場合が多いです。
この辺はもう純粋に好みですので、色々と試してみてください(パッドとの兼ね合いもありますので)。

これはRCS15ロングレバーの物を取り付けています。
オイルタンクは小型の物を使い(RCSの場合はS15A、通常のラジアルマスターではS15Bを使用)、オイルタンクステーはアルミ3mm厚の板材から切り出しています。

パッドも完全に好みですが、使っていてバックプレートが反るものもあります。

これはかなり減っていますが、ここまで減っていなくても反るものはあります。
ブレーキの遊びが増えたり(熱が入ると特に)、ホイールの回りが悪い時は確認してください。
次にマスターとキャリパーをつなぐブレーキホースです。
注意点として
・長さ(フロントフォークを全部伸ばした状態で採寸する事。短すぎれば破断しますし、長すぎればガード類やタイヤとこすれて危険です)
・向き通し方(ハンドガードとの干渉やフォークガードに対する取り回し方など)
・ガイドチューブと固定方法
・バンジョーの材質(市販車はステンレス推奨)

まずはスタンドに乗せてフロントフォークが伸び切った状態で、必要なブレーキホースの長さを計測します。
通常はフォークガードのクランプから先は、フォークガードの外側を通しています。
メリットデメリットはあるのですが、この方がメリットというか安全性が高いという理由です。
・フォークガード内側は、タイヤとの干渉を避ける為にカットされているので、内側を通すとブレーキホースが沈んできたアウターチューブと接触する場合がある。
しかもその際に下側に向けてホースが押されると、ブレーキローターとホースが接触する可能性が大きい。
これは実際激しく上下動でしますので、クリアランス狭いと本当に危険なんです。
過去にホースがブレーキローターにあたって切れている物を、何度か見ております。
ブレーキホースを外回しにすると転倒した際や他車との接触時に損傷する可能性がある。
どちらを選ぶかというわけで、私は外回しを選択しています。
ガイドチューブは必ず取り付けてください。
社外品のホースでは、オフロードやモタードモデル用にガイドチューブが入っているものがありますので、それを選びます。
入っていないと300mm程度のストローク量があるので、ブレーキホースをたわんでタイヤと接触することが多くあります。
フォークガードのクランプ部ですが、これはガイドチューブ下側を収縮チューブで2重に保護した部分をクランプしています。
クランプで来ていないとホースが上下に動いて、これもまた上下動が激しいのでホースがいろんなところに接触、または引っかかったりします。

あとゼッケンのこの指さしている部分はカットしないようにしましょう。
これはブレーキホースの通り道で。これが無いとサスペンションがストロークした際にゼッケンの端にブレーキホースが引っかかったままサスペンションが伸びてサスペンションが伸び切らなくなったり、ホースが切れたり、バンジョーが緩んだりします。
ハンドガードの取り付け部で右側にカラーが入っているのに(ラジアルマスターとの干渉)左側にカラーが入っていないのは、同様にブレーキホースが引っかかる確率を下げる為になります。
同様な理由で、ブレーキホースが長すぎるのも、ゼッケン前で暴れるので危険です。
よく市販車でライトカウルからゼッケンに付け替える方がいますが、ホースが長すぎるのとホースガイドが無かったり通し方が悪い人が多いんですけど、あの状態でジャンプを飛んだりすると同様なことが起きるので大変危険です。
というわけでブレーキの変更というだけでも、見ないといけない部分が多いと言う事と、やらないと危険案ですよと言う事がわかっていただけると嬉しいです。
最後に以前私が乗っていたYZ250Fのブレーキ周りの動画です。
ホイールはCBR900RR(SC33後期)のホイール、ベアリングは普通のシールベアリング(ダストシール無)、ブレーキローターはサンスターのΦ298のR25用、キャリパーP30/34の40mmピッチ、キャリパーサポートはオリジナル、パッドはサンスターのレーシング、マスターはRCS15です。
ブレーキローター径が小さいのは、250ccなので制動力がそこまでいらない(大径ローターは効き始めがガツンと来るので)、キャストホイール前提なのでこれを使っています。
厚みも4.5mmで薄いんですけど、トラブルはありませんでした。
こうやって回すだけで、引きずりが無いかを見ることができますので、チェックしましょう。
さてハンドル周りと言えば、モタードですとハンドガードを付ける場合が多いです。
これはラジアルマスターやクラッチレバー(ホルダー)などが直接アスファルトに叩き付けられる場合(まあ転倒も多いので)を想定して、生存性を上げるためです。
そうなるとアルミの芯が入っている物を使う事が多くなります。
メリットとしては...
・頑丈である(樹脂のみでアルミの芯が無い物と比較して)。
・それ故に保護性能が高く、生存性が高い。
デメリットとして
・取り付けが困難
・重くハンドル周りの剛性が上がるために、ハンドル自身のショック吸収性が下がり、ギャップなどで固く感じる。
樹脂のハンドガードは、転んでも大丈夫な場合もあるんですが、瞬間的に変形していて転んだ後に見てみると、ハンドガードには損傷はあまり無いのですがレバーなどは曲がっていたりすることもあります。
ハンドガードはこの辺のメリットデメリットを考えてチョイスすることになります。
個人的には街乗りの際はハンドガードつけたくはないです(重いし、軽快感は無いし、ハンドル周りはスイッチ類が多くて猥雑だし、ハンドルの衝撃吸収性が悪い)。
ですがレースやサーキット走行での使用だとアルミの芯入りの物を、私は選びます(転んでもブレーキ周りが壊れず、まだ勝てる可能性がある)。
というわけでアルミの芯が入っている物の取り付け方です。

これが私が取り付けた場合の例になります。
注意する点としては
・ハンドガードの端とハンドルの端面とずれが無く隙間が無い事
・ハンドガード車体中央側の長孔取り付け部の外側にネジを取り付ける事
・ブレーキホースとの干渉を避ける事。また、多少ずれても干渉しないようにすること。
・スロットルチューブとハンドガードの間には、隙間を設ける事(この画像の物はハンドルを短く使うのと同じ効果を持たせるために、隙間が大きいです)
当店ではCYCRAのハンドガードを使う事が多いです。
理由は「頑丈」ただそれだけです。
ハンドガードは曲げないと取り付けできないのですが(ハンドルは多くの種類ありますが、ハンドガードは各メーカーとも1種類しかありませんので)、その際に当店では重さ100kg以上ある鉄のテーブルに固定した万力にハンドガードをくわえて、そのハンドガードに1m程度のパイプを用いて曲げるのですが、CYCRAのハンドガードはこの鉄のテーブルが持ち上がるくらい力をくわえて初めて曲がります。
国内製品ですとZETA製の物がありますが、同様に万力に加えて片手で曲がります。
まあその分重いしハンドルも硬くなります。
固定の際はUクランプを使います。
これはブレーキホースやクラッチワイヤー、配線などの導線確保のためです。
他にもトップブリッジにマウントするものもありますが、これは激しく転倒した際にトップブリッジまで曲げてしまうので、フロントフォークの作動性に影響するので、私は使いません。
まず取り付ける前にスロットルチューブの加工やグリップのカットを行います。
以下に示すのはダメな例です。

スロットルチューブの穴あけ径が小さく、このままハンドガードを取り付けた際はスロットルが回らなくなりますし、右に転倒した際はスロットルが開いたまま固定される可能性が高いです。

スロットルチューブよりもグリップが長いと、スムーズにスロットルが開閉できません。
よくこの部分で泥の侵入を防ぐという方もいますが、あまり変わりませんのですっぱりとグリップをカットしましょう。

これもグリップが少し長い(ハンドガードと接している)のと、ジュラコンのバーエンドを付けていますが、これを取り付けると締め付けトルクが上げられないので、転倒した際にハンドガードが動きやすくなります。
またハンドガードとハンドルの端面の角度が合っていないと、バーエンドのボルト(大抵M8ですが)が転倒した際に曲がります。
それと真っすぐじゃないと締め付けできていませんので、ハンドガードが緩みやすくなります。

これもクランプがクラッチホースと干渉しています。
転べば間違いなくホース類を破壊します。

これはクランプの前側が締め付けられていません。
こういう例はものすごく多くて、まず前側のネジを締めて次に後ろ側のネジを締めるとこうなます。
そうなんですあまりちゃんとクランプできないんです。
ですのでこのタイプは使いません。

これもクランプとブレーキマスターのバンジョーボルトと干渉しています。
これで転んだら破損します。
それとこのタイプのクランプは、横方向から力が掛かると内側にすぐ曲がってしまうので変形しやすくなるので使用しません。
これが変形した状態です。
もうレバーも守っていない状態なので意味がありません。

曲げる際はプレスなどを使ったり(そうしないと端面に近い部分は曲げられない)、曲げる方向も3次元的にねじりながらとか結構大変です。
そうしてハンドル端面とクランプの前面とで角度も合い隙間も無いようにしてから、ネジでしっかり締めこみます。
隙間が空いている状態からネジで強引に締めこむのはダメです。

またクランプとの結合部で、ハンドガードの長孔の外側にボルトが来るようにするのは、長孔部分は強度が無いためにねじれて曲がりやすくなってしまうためです。

こうして初めて、転倒してズレ難いアルミの芯入りハンドガードとしての機能を果たします。

ラジアルマスターを使用する場合は、ハンドガードをかなり曲げなおした上に、カラーを追加してクリアランスを作ります。
市販車はこれにスイッチボックスなど場所の制約が増えるので、もっと大変です。
でも一番大事なのは、付けられるところに付けるのではなく、付けたい場所に付ける。
ポジションとしてレバーの位置や角度が一番大事で、その為に色々と加工をします。
操作性を無視して、付けたいから付けるでは何の意味もありません。
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